都会の喧噪に嫌気がさした私は、居合わせたタクシーに飛び乗って 
運転手の勧めるままに着いた村、どうぶつたちは私を快く迎え入れてくれた。 

そこで暮らし始めて、もう一年近く経つ。 

この村はやさしい村だ。 
砂浜で貝拾いをする足を洗ってゆく波も、今にも消え入りそうなほど淡い星のまたたきも 
何もかもがやさしかった。 
ただ時が過ぎゆくたびに胸にわき上がる不安、不信…この村の奇妙な現象の数々… 
そういえばあの夏の花火は何処から打ち上げられていた? 
引っ越すと云って消えた友人達は何処へ消えた? 

それでも村の何かもが珍しく、驚きと喜びに忙しくしているうちはよかった。 
何も考えずにいられた。でも、今。 
与えられた家の借金はもうない。 
請われるままに寄贈を続けた博物館は立派になった。 
今の私は、ただ毎日生える雑草を抜き、花に水をやることだけ… 
機械的に村の環境維持に努めるだけ… 

…今の私は、あの都会にいた頃のよう。堪えきれず逃げてたどり着いたと思ったこの村も… 

門番さんに落とし物のひとつを、私のモノだと云ってもらってきた。白くて、丸い玉。 
今の私はそれがどういうものかつぶさに分かる。 
初めてそれに出会った時の驚きが懐かしい。 
私は黄金色に輝くスコップでそれを村の隅で土に埋める。 
もうこれで終わりにしよう。 
さようなら、私の関わったあまり多くはないものたちよ、さようなら。 



…そうして、私は落とし穴に飛び込んだ。 …ハズだった… 深い穴の底、私は膝を抱え丸くなっていた。感じられるのは土の匂いだけ。 そうして終わりの時を静かに待っていた。 どれぐらい経ったのかまどろんで居た私は、何かを感じて目を覚ます。 ざわり。ざわ。ざわ。 土が、動いている…! 波のようにうごめく土に、私は溺れているようになる。 なにがなんだか分からないまま、明るい昼の太陽の下に私は放り出された。 あたりを見回しても平坦な地面が続くだけ…穴などない。 落とし穴が…落とし穴自らが塞がったのだ。 この村への疑問は更に深くなる。 そして逃げ道が断たれたことに、私は再度、絶望した。 ■TOP