僕は部屋に置かれたベッドの上で、数日前の夜のできごとを頭の中で整理し直していた。 羊を前にしながら逃げられた事、そしてその後に知ったヤツらの恐るべき事実を・・・・・・。 羊を狩り損なった僕は、まだ夜の森を彷徨い歩いた。夏の萌える様な緑の季節が過ぎ紅葉の 兆しも見せ始め、寒くなる前に何とかせねばならないという気持ちに拍車をかけた。そして ようやく新たな獲物を見つけ、今度こそ逃がしはしないと気を引き締めた。 何も知らずにこちらへ向かって来たのは、とぼけたフリをしてとんでもない腹黒な黒牛だった。 ヤツなら今夜に消え去っても、誰も悲しみはしないだろう。僕は息を潜めて木の陰で待ち、 ヤツが通り過ぎようとしたところを後ろから一気に襲い掛かった。 「!!」 僕のオノが確かに胴体にヒットしたはずだったが、その感触が動物の骨肉を斬ったものとは、 明らかに違うものと感じた。気を取り直して再びオノを振りかざしヤツに飛びかかる僕の心は、 誰よりも鬼畜だったと思う。そして・・・・・・。 「・・・・・・ひゃ〜っ!」 悲鳴をあげたのは、黒牛でなく僕だった。ヤツに当たったオノは、まるでゴムの固まりに 当たったかのごとく弾き返されたのだ。手にした凶器が役に立たず、結果として自分が 全くの丸腰の状態と知った僕の体は、体の震えも歯の音も止めることができなかった。 そんな僕の気配を察したのか、黒牛が赤い目を光らせながら振り返った。 「うふふふふ もうおひさまと さよならだねぇ〜」 僕を殺すという意味の言葉を口にしながら、ヤツが静かに近づいてきた。しかし恐怖に足が 竦み声も出ない僕を見て、なぜかヤツは去っていった。助かった理由が、今もわからない。 しかし一つだけわかったことがある。僕にヤツらを殺す事が不可能なのだと。 どうすればいいんだ。こんなところで人生を終わらせたくない・・・・。 ■TOP