今ここに自分が居る経緯がわからない。 
わかっている事と言えば、これからこの場所で生活していかなければならない事だけだ。 
何故ここで暮らさねばならないのか? 
どうして自分はここに居るのだろうか? 
その問いに答える者はいない。 
覚えている事は河童につれられて来た気もするが、河童など存在しない。 
ではこの記憶は何だ? 
自らに問うてみてもその答えはない。
ただ分かる事はこの地で生きてゆかねばならないということだ。 
生き延びる為にこの地を探索するとしよう。 



見る限り平和な世界に見える。 木々や草花は生い茂り、地に落とした果実は腐らないよだ。 これらを食していれば飢える事はないだろう。 腐らない果実が自然であるならば、であるが。 南下すれば海があり、魚を釣る事ができる。 海があると言う事は当然川もあり、そこでも魚が取れる。 動物性蛋白質を取る事ができ、生きることは可能であるように思える。
探索を続けていると何やら「かさかさ」と言う音が聞こえる。 ついぞ聞いたことのない音だ。 何の音だろうか?この様な音をたてる生物に心当たりはない。 もっとも、それほど生物に関しては詳しいとは言えないが。 足に激痛が走った。何だ?この痛みは? それほど長い距離を歩いた覚えはないが。 いや、疲労とは違う。その証拠に意識が遠のいてゆく。 遠のいてゆく視界の隅に何か違和感を覚える生物の姿。 何だあれは?なぜ蠍などいる? 遠のく意識の中で確信した。 「あぁ、ここで死んでしまうんだな。」
ふと気づくと一軒の家の前に居た。 何だ?この貧相な家は?こんな家見覚えがないぞ? いや、見覚えはある。河童に連れられてきたその日に見た気がする。 確かたぬきにここがあなたの家だ、と言われた。 ありえない。河童などいないし、たぬきが喋る事もありえない。 しかし今この目の前にある家のポストには私の名がある。 ではここは私の家か? いや、そんな事はどうでもいい。どうでもよくないが、二の次だ。 何故自分は生きている?確かに自分は蠍に刺された。 普通ならば生きていないはずだ。 では私は死んでいるのか?いや、生きている。 何故だ? いや。生きていないのか?わからない。 誰か助けてくれ。答えてくれ。 いっそ狂ってしまえば楽なのだろう。 ■TOP