雪の降る今日も、僕は散歩に出る。 
考えてみれば、ここに来る動物たちは冬眠をしないのか? 
犬や猫、そしてウサギについては納得しよう。 
しかし変温動物のはずのカエルやワニまでもが、 
雪の中を平然と闊歩する風景には、軽い目まいを覚えずにいられない。 

そう言えばリスやクマが冬眠に入る理由のひとつは、食べ物が手に入りにくく 
なるので、体力を生き延びるために温存するためでもあると、 
学校にあった図鑑で読んだ記憶がある。 
確かに最近は、採ることのできる虫や魚もめっきり減ってしまったようだ。 

しかし今日の雪は、いつもと違っているようで、風も強くなり吹雪の様相を見せてきた。 
夜間によその家に上がりこむ趣味はないが、この場合にそんなことを言ってられない。 
僕は、近くの家に避難をさせてもらうことにした。 

ゴージャスな内装の部屋に不似合いなピンクの家具が並ぶのは、その部屋の主が 
欲しがるままに、ラブリーシリーズの家具を渡し続けた僕の所業の結果だ。 
そしてその部屋の中で座るでもなく、冬眠を忘れたワニのアルベルトが歩いている。 

「やあ、こんな夜中にどうしたの?もしかして・・・外じゃ言えないヒミツの話? 
 ・・・もう、君って積極的だなぁ〜、だワニ。そうそう、ボクにいったい 
 何の用なのぉ〜?だワニ?」 
寒くて頷くことしかできない僕の状況を理解したのかしていないのか、勝手に 
アルベルトが話を進めていく。 
「さいきん素敵な鉄道の写真を手に入れたんだぁ、だワニ。君にも特別に 
 見せてあげようかぁ〜?」 
まだ震えのとまらない僕の動きは、顔を横に振ったと見えたようだ。 
「ええ!君、鉄道好きじゃないの!?残念だなぁ・・・。でもちょっとだけなら 
 興味あるんでしょ?」 

そうだ、こんな夜遅く突然に訪問した僕は、招かれざる客なのだから、やはり 
ここは相手に合わせなければ。少しくらいいいじゃないか。 
「ち・・・ちょっとなら・・・・。」 
本当ならもう少し気の利いた返事でもしたかったけれど、それがやっとだった。 
「最初から素直に言えばいいのに・・・、カミングアウトの記念に、この 
 起き上がりこぼしをあげちゃうよぉ〜、だワニ。君と僕の友情にカンパーイ!だワニ」 
これって、つい最近に僕があげたものじゃなかったか? 
しかし何だかとてもうれしそうに鼻歌交じりにはしゃぐ彼を見て、 
そんな突っ込みの言葉を飲み込んだ。 

「ようし!今夜は眠らないぞぉ〜!だワニ!」 
「やあ、君のお尻に・・・カンパーイ!だワニ!」 
心なしか声も上ずっているようだが、楽しんでもらえるに越したことはない。 
僕も当たり障りのない会話を彼と繰り広げていく。 
やがてアルベルトがキラリと野生の目を見せ、僕に一抹の不安がよぎった。 
「う〜ん、夜も君はいい匂いがするなぁ〜・・・。だワニ!」 

数秒後に僕は、アルベルトの家を飛び出て全速力で走り出した。 
猛吹雪の中でも気にならないほど、体が温まっていたのに震えが止まらなかった。 
僕は生まれて初めて目の前でワニの喉を見た。 
今は冬。食べ物の少なくなっている季節なんだから、油断しちゃいけないんだ。 

それにしても、あの起き上がりこぼし惜しかったなあ。 
売ればコーヒー代の足しにでもなっただろうに。







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