いろいろ試した結果、タンスとクロゼットはどういうわけか中で繋がっているとわかった。 
信じがたい話だが、信じがたい話などこの村にはごろごろしている。 
気にしなければ、便利な話だ。 
各部屋に収納家具を置いておけば、何か必要になった時、どの部屋にいても 
すぐに用が足りるのだから。 

そう、気にしなければ。 

だが、これが気にせずにいられようか。 
縦型のクロゼットと横型のタンス、異なる形の家具に物を収納しているのだ。 
収納の仕方は同一ではない。 

ハンガーに掛けてクロゼットの中に吊り下げた、お気に入りの服。 
タンスの引き出しを開けて探すと、確かにそれはあった。引き出しに合うよう、たたまれて。 

もう一度クロゼットを開ける。 
ハンガーに掛かった服が吊られている。 

タンスの引き出しを開ける。 
明らかに僕のものではない手癖で、お行儀良くたたまれた服。ハンガーは見あたらない。 

うっかり付けてしまったシミや、見覚えのある縫い目のほつれ。動かぬ証拠。 
間違いなく同じ服だ。僕の着慣れた服だ。なのに。 
クロゼットとタンスを結ぶ見えない通路の中で、何が起きているのか。 

・・・気がつくと、僕は全ての持ち物をタンスの中から引きずり出していた。 
訳のわからないわめき声を上げながら、それらを部屋中に投げ散らかす。 
つかんだ手に、ひんやりした布の柔らかい感触。それが宙を舞う度、揺らぐ部屋の空気。 

からっぽになったタンスの前に膝をついて、僕は肩で息をしていた。 
ゆるやかに首を巡らし、散らかった部屋の反対側に黙然と座す、クロゼットを見つめる。 

僕は、そっとタンスを閉め、重い動きで立ち上がった。 

足先に柔らかくからみつく服たちを引きずりながら、クロゼットの前にたどり着き、扉を開ける。 
からっぽの庫内。 
見えない世界でタンスと結ばれている、板で囲まれた四角い空間。 

閉ざされた森の中の、 
時の流れぬ家の中で、 
“どこか”と繋がっている道への入り口。 

ねえ、もしかして。 

そのひんやりとした空間の奥へ腕を伸ばした僕は、多分、 
母親に抱擁をねだる幼子のような表情をしていただろう。 

含み笑いのようなかすかな風が、小さなクロゼットの奥からこぼれ、僕の身体を飲み込んだ。







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