「この前、お前の同居人の“あいつ”を見かけたけど 
ぶっちゃけアイツ【孤独な少年】ってかんじだな」 

とある住人が僕につぶやいた。 
“あいつ”…。いつ見ても「たぬきちの店」の作業服を着たまま、僕の家の屋根裏で寝ている“あいつ” 
正確には“あいつら”同居人。 
女が2人に男が1人。 
僕が起きている時、彼らは寝ていて、僕が寝ている時に活動している。 

その証拠に、僕が目覚めると、部屋の中には掘り出した化石や、ちょうどその時欲しかった物… 
住人からねだられていた魚や服・家具なんかが、置いてあったりする。 

それどころか、99000ベルの入った袋が無造作に放置してあることさえある。 
家に大金を置いたままというのも物騒なので、僕が代わりに役場に貯金している。 
おかげで利子はどんどんつくし、ティッシュや貯金箱という(預金額の割にはケチな)記念品も貰った。 

それでも彼らから苦情の手紙ひとつ来ないので、ついつい僕は、彼らの金やモノを 
利用させてもらうのが常となった。 

そんな得体の知れない、しかし僕にとっては都合の良い存在の彼らだが、 
僕と同じく孤独を抱えているという。 
僕は最近、他のむらへ出かけようが、この村の住人と仲良くなろうが、結局本当の意味では 
1人ぼっちなんじゃないか? などと鬱屈していたところだったので、ひとつ屋根の下に 
同じような仲間が居る事が嬉しくなった。



もっと彼らのことを知りたい。僕はむらの住民達に聞き込みを開始した。 聞いた話をまとめると…  ・とにかく無気力。それが顔にも出ていて、目がいつも半開き。  「あのコたちの顔を見ると「やっつけ仕事」って言葉を思い出すわ」誰かがそう言った。  引越しの時も、カッパの運転手の質問に投げやりに答えていたという噂だ。  ・魚は釣らないし、虫も捕らない。  ・だけど、村じゅうの岩を叩いて小銭を稼いでいる。  (これは僕もやってる。しかし、金の出る岩は1日1つだけだし、僕が毎朝一番に見つけて、  叩き終わってるはずだが…?)  ・むらの住民とは全く話さない。  ・もちろん手紙も出さない。出しても返事が来ない。  ・そのくせ、たまにやってくる部外者は大好きで、グレースの服・セイイチの絵画・とたけけの歌・  ラコスケがくれる家具などを、ちゃっかり手に入れている。 …僕以外の3人はみんな、そんな行動を繰り返しているそうだ。 さらに手がかりをつかむため、僕は彼らの部屋を捜索することにした。 増築した部屋の各収納は、誰が言い出したわけでもないのに個別に使うようになっていた。 まず、1人目のタンスを開けたとき、僕は戦慄した。 引出しの中には、ありとあらゆる種類のハニワと化石が、隙間なく収まっていた。 まさか、と、続けて他の2人の収納も開けてみる クローゼットに、ありとあらゆる種類の服や絨毯や壁紙が… 冷蔵庫に、今まで関わった住民の写真が…ギッチリと詰まっていた。 ギッチリと…そういえば、彼らはいつも手荷物が多かったと誰かが言っていた。 僕は屋根裏へ確認に行った。 彼らの手荷物をのぞくと、その中には、タンスに入らない白カブ、部屋に水槽を置くには大きすぎる魚 (サメやマンボウ)、そして珍しい虫…そんなものが詰まっていた。
単なるコレクション? それにしては、なんだか薄気味悪い。 【孤独な少年】だと? 違う、この申し合わせたような集め方からして、そうは思えない。 あの3人は一丸となって行動している。 おそらくは、のけ者の僕個人に対して「何か」をするために…。でも、それは一体? 僕は考えに考え、しかしろくでもない暗い想像しかできず、とうとう気分が悪くなったので、 外の風に当たろうと玄関の扉を開けた。深呼吸をしたその瞬間、ポストに書いてある彼らの名前が目に入った。 女が2人に男が1人。   「そうこ」・「ほかんこ」・「ストックマン」 僕はその時思い出した。遠い昔母に語ってもらった童話「こびとの靴屋」を。 こびとは、僕が寝ている間に小金を稼ぎ、モノを手に入れ、整然と保管しておいてくれる。 ホッとした。心配することはなかった。彼らはこれからも僕のために働いてくれるだろう。 しかし、嫌な考えも頭を横切る。 僕も、所詮は「靴屋」の代わりに都合良く働く、こびとの一人に過ぎないんじゃないか、と…。 ■TOP