この村に来てから今日で丁度一年が経った。 
初めは軽い気持ちで家を飛び出し、ここへ来たが、これ程までに長く滞在するとは思わなかった。 
いや、拘束される、と言った方が正しいか。 

この村に来た時、ここは住民も少なく、やけに立派な役場と博物館、 
みすぼらしい掘っ立て小屋のような商店と服飾品を扱う店。それだけだった。 
初めは興味本位で、暫くすると生き延びる為にこの村を歩き、いろいろな物を採取し売買した。 
全ては生きてここから逃れる為に、自分の為にやった事だ。 
何度か門番の機嫌を伺いながら外出した事もあったが、 
たどり着いたのはここと同じく閉鎖された空間と、虚ろな表情をした、僕と同じ姿をした住民がすむ村だけだった。 

博物館の展示物は全て揃ったそうだ。梟に請われるままに色々と寄贈してきたからだ。 
それも自分の身を守る為で、言うことを聞かなければ身の危険を感じたからだ。 
決してこの村の発展の為などではない。自分の為だ。 

みすぼらしかった商店も今では立派なデパートになっている。 
初めて出会った時は裸に前掛けなどという信じがたい格好をしていた狸も、 
今では立派だが、センスのないスーツに身を包んでいる。 
色々とぼったくられた気もするが、生きて行く為に必要だったので仕方ない。 
店舗が立派になって狸は喜んでいるだろうが、自分の為にやった事だ。 
ただ、もうあの狸のコンビ二時代の下半身丸出しのコンビニシャツ姿や、 
スーパーだった時期の裸エプロン姿などと言うおぞましい物を見ることがなくなったのは、 
僕にとって喜ばしい事だ。あの露出狂狸め。やっと更正したか。 
初めて会った時にここで着替えろなどと言ったセクハラ発言を僕は忘れない。



一年過ごして不信感は増すばかりだ。 なぜあの博物館の梟は展示品はこれで全て揃ったというのだろうか。 博物館と言う物の展示物はいくらでも発見されていくものだ。 これで終わり、という事はない。 しかし、いくらこの村を探索しても新たな発見がないのも事実だ。 全て今まで見てきた物ばかりだ。 村長は監視者側の人間、と言うか亀、だと薄々勘付いていたが、 もしやあの梟も監視者側なのだろうか。 そうでなければ展示物が全て揃ったなどという発言はできない。 狸はローンを返し終わった後も大人買いしてなどと、僕をしゃぶりつくす気でいっぱいだ。 子狸まで駆り出して家具や雑貨を売りつける。その全てはただの葉っぱだ。 僕をここから逃がすつもりはないだろう。 あの狸共も監視者側だろう。 毎週大量のかぶを僕は売却しているが、あのかぶは一週間で腐ってしまうかぶだ。 どの様に処理しているのか疑問だったが、狸が監視者であれば説明が付く。 監視者と言ったが、管理者と言う方が正しいのかもしれない。 僕は管理されている。この村へ来たのは僕の意思だった。 しかし、ここでの生活は管理されたもので、僕に自由はない。 この閉ざされた空間の中であれば自由はある程度あるが、 他の住民に対して物理的に、直接的に干渉することは許されていない。 …ここへ来たのも僕の意思だったのだろうか。 もうこの軟禁生活に疲れたよ。 一年過ごしてやってきた事をこれから先も繰り返すだけだろう。 いや、これ以上の変化は望めない以上、刺激のない生活が続くだろう。 緩慢と死を迎えるだけの生活だ。 あの頃に、この村に来る前に戻りたいと思うが人生にリセットボタンはない。 しかし、僕の人生には電源ボタンはある。 僕の電源を切ってこの村から逃げよう。 逃避だと言われるかもしれない。だけどそうするしか方法がない。 電源を切ったら僕はもう二度と目覚めないだろう。 僕は自由だ。解放される。さよなら誰が作ったか知らない箱庭。さようなら。 ……… ■TOP