【真実と罰。そして懺悔】 
僕は脱出への糸口を見つける為、 
村人との交流をはかった。 
だが、手掛かりは見つからなかった。 
そんな中、バニラとは結構仲良くなった。 

この事はバニラの誕生日の次の日の事である。 

「バリさん!」 
バニラが僕に近付いてきた。 
「バリさん、今日、私の家に来れますか?」 
バニラは顔を赤らめて僕を見つめる。 
「うん。良いけど?」 
僕は快く返事を返した。 
「じゃあ22時の30分に。」 

随分遅いな。 
それに普通どうぶつから自分の家に誘うなんて… 
僕は気にしない事にした。 
「じゃあ後で。」 
…僕はバニラと別れて、家に戻る途中で村長と出会った。 
めずらしい事もあるものだ。 
僕の家の前に、しかも昼時に居た。 
「村長!」 
「おお、バリか。」 
「何か用ですか?」 
…そう聞くと、一瞬、村長は言葉を出すのをためらった。 
永い一瞬が過ぎた。 
「…あまりあいつには付き合わん方が良いぞ。」 
村長はそう言うと役場へ戻っていった。 

あいつとは誰だ?そうは思ったが、 
僕の頭の中には一人の美しいどうぶつの姿が浮かび上がった。 
バニラ。 
バニラの記憶は僕のモノクロの記憶を色鮮やかにしてくれる。 

僕は村長の不可解な言葉を解釈した。 
バニラは何かを知っている、と。



「バニラ!」 僕はバニラの家に入った。 「バリさん!」 楽しい一時が流れた。 バニラは人間より人間らしい。 僕はそう感じた。 急に辺りが静かになる。 「バリさん…私の話を聞いてくれますか?」 「?うん。いいよ。」 僕は迷いもせず、頷いた。 そして真実を知る事になった。 「私のこの身体は…本当は私の物ではないんです。」 僕の頭は一瞬、バニラの言った事を理解出来なかった。 だが、その言葉は僕の脳を渦巻き、脳細胞がフル活動で知識として再構築していく。 「バニラ、詳しく聞かせてくれ!」 僕はバニラの肩を強く掴んだ。 「あっ…」 バニラは弱い声を口から漏らす。 「…ごめん。」 「いいんです… 私…一度、命を捨てたんです… 人間としての命を…」 「…」 「貴族として生まれた私の回りには一つの愛情もありませんでした… 私の身体も、心も傷ついていきました…」 「バニラ…」 「…自分の人生が怖くなった私は、橋から身投げしたんです。 …そうしたら、身体が軽くなって、…村長が…」 「…!」 「私は自分を捨てたい、と村長に言ったんです。 そうしたら、 『この身体を捨てて、新しく生まれ変わるか?』と。 …そして、私は頷きました。 …身体が変わっていく感覚は今でも覚えています。 肌から毛が生えて、黒い髪がどんどん抜けていって…」 僕の身体から血の気が引いていく。全身がザワザワする。 「そして骨が軋んで…血が噴き出して… でも…痛みがなかった…」 バカな。村長は、村長は…人体を直接変化させられると言うのか。 「最悪だ…そんな事が行われていたなんて…」 「…」 バニラは黙って、どんどん顔が下へと向いていった。
「バリさんが村の事を必死で探っていたから… やっぱり言わなきゃって…」 「…」 永遠とも思われる、数分が静寂の中で流れる。 「それでも…」 僕は静寂を破った。 「え?」 「それでもバニラは好きだ。 姿がどうなろうと…バニラの優しさが…好きだ!」 僕は正直に言った。 この瞬間、真実を知った僕はこの後どうなるのだろうか、 …そう言う事はどうでもよくなってきた。 「僕は愛している。 愛しているよ…」 「バリ…さん…」 バニラが僕の頬に口付けした。 僕が、バニラの方を向くと、 バニラの無垢な顔がどんどん赤くなっていった。 僕は何分か、バニラと口付けし合った。 僕の苦心が吹き飛んだ。 この空間に閉じ込められていて、不安だった。 寂しかった。 悲しかった。 でも…僕は同士を見つけた。 そして、同時に愛せる者も見つけたんだ。 …僕の顔に暖かい、何かが当たる… 「あなたに…あなたにもっと早く出会っていれば…!」 「バニラ…」 口付けは更に激しくなり、そして―
もう、日付が変わろうとしている。 僕は帰る仕度をしていた。 「バニラ…これから君はどうするんだ?」 「…真実を話した、私は村から消されます」 やはり。 村長は外部に漏らさないつもりか… その時、窓の外の影の視線に気付いた。 しまった。早く気付くべきだった。 今の影はぺりこ、はたまたぺりみか? …監視されている! 「!…バリさん…」 「…僕は、僕はどうすればいいんだっ!」 「バリさん、ごめんなさい。私が…」 「ううん…いいんだ。…決着をつけてくる。」 「バリさん?!」 僕は金の斧を手に役場へ向かった。 終わらせてやる。 因果の螺旋を…
「…バリ。」 村長は強く、威厳を以て僕の名前を呼ぶ。 僕は有無を言わさず、村長の左腕を切り落とした。 斧から腕を断ち切った感触が僕へ伝わる。 「ぐあああぁぁぁっ!」 金の斧は血を受けて、妖しく、そして美しく光った。 「哀れだな。コトブキ。 …自分で渡した斧で斬られるとはな!」 僕はあまりにもありがちな台詞を言った事を悔やみつつ、 近くに居たぺりみの胸を斬った。 ザクッ。 斧は凄まじい唸りを上げてさらに頭を潰した。 血飛沫が床へ、そして僕の頬へ散らばる。 丁度バニラの口付けを受けた場所だ。 「貴様ッ…!」 村長…いや、コトブキは断面を押さえながら床にひれ伏して居る。
「身体を変えた住民を元に戻せ。」 僕はコトブキの首に斧の刃を当てながら要求した。 「…は、はは…下らない事の為に…」 僕は斧を少し下へ押しつける。 「あ゛あ゛っ!」 首から血が漏れ出す。 「元に戻せ。」 「はははっ…もう無理だ!あいつらの肉体はもうワシの力となって朽ち果てたわっ!」 「…そうか。」 僕は落胆した。 バニラの人間の時の姿を見たかった… 僕は力を入れて斧を完全に下に落とした。
「バニラ…」 「バリさん…!その血は!」 「バニラ…逃げよう。 こんな所から…」 バニラは黙って頷いた。 僕には死角があった。 村の門番が邪魔で気になったが… 門はどうなっている?外界への空間が広がっているのか? 門から出るしかない。 僕とバニラは門へ向かった。 「あっ…その血はなんでありま…」 僕は金の斧を投げ付けて門番の一人を闇へ葬った。 「あ!あっ…あっ…あの…」 バニラも金の斧を持っていたらしく、もう一人の門番の頭をカチ割った。 急いで僕達は鍵を奪い、門を開ける。 僕達は白い空間を走った。 それはどれだけ走ったか時間を忘れる程だ。 だが…白い空間から外に出る事はなかった。 「何故だ…!何故出れない…!?」 ただ焦りだけが大きくなる。 そう言えばバニラがいない。 いつの間にかはぐれたんだ。 バニラを捜す僕の目の前に、一人の少年が現れた。
「ダメじゃないか。こっちにきちゃぁ…」 「お前は誰だ!」 僕は謎の少年に問う。 「僕?僕の名前はニンテンドー。 この世界の神様と言った方がいいかな。」 「…神?神様だと?」 「ああ。コトブキもこっちの手先。住民を作るのに協力してくれたよ。」 「貴様…」 僕の身体の奥底から怒りが湧いてくる。 「まあバニラは没になったデータを使っただけだけどさ!まさかプレイヤーとヤっちゃうとはねぇ。」 「!何の事だ!?」 僕が今聞いた「データ」「プレイヤー」。 どういう意味なのだろうか。 「まあいいや…君は知り過ぎた。」 少年が手を翳す。 僕は応戦体制に入る、が、無駄だった。 僕は左腕と左脚と胸に違和感を感じた。 左脚に視線を向けると、 左腕が徐々に分解されていくではないか。 左脚もだった。 そして、胸の部分は青紫色に変色していく。 「まあ…ルール違反しちゃったし、妥当でしょ。」 何だこの少年は。何を言っているのだ。 「君にもどうぶつになってもらおう」
景色がいつもの村に変わった。 夜空がきらめく村。 バニラも、気絶はしていたが、側にいる。 …僕は左腕を見る。 左腕が肩から丁度無くなっており、 血が噴き出し始めた。 「っ…うああああああああっ!!」 脚からも血が噴き出す。 バニラはその声で目を覚ました様だ。 「バリさんっ!?」 「ああああっ…あ…」 出血が止まった。 …断面から骨が生えた。 徐々に筋肉も構築されていく。 …だが…生えた腕と脚は既に人間の物ではなかった。バリは、知識の代償を人間としての自分を払う事になってしまった… 〜FIN ■TOP