その日も、この村にとって何の変哲もない一日の始まりであって、僕にとって、 
いつもの嫌な一日の始まりだった。相変わらず眠ったままの、僕の同居人を 
横目に起きて、すぐに外出する予定だったが、ポストに数通の郵便が入っていた 
ので、ひとまずそちらの整理を終えてからにした。 
たぬきの店より怪しげな、つねきちの出店の案内状。何度見ても僕の心を重く 
する、ははの手紙。(あの同居人にも、同じように届いているのだろうか。) 
そして最後は、ロデオからの手紙だった。『ん・・・・、ロデオ?うちに 
押しかけたときの礼状はもらったはずだし、誕生日は先月終わったはずだ。』 

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せつないねぇ つもりくん! 

ホラゲむらは、ボクが 
いっぱいだよぉ・・・たぶん 
キミがいま たってるところにも 
ボクのおもいで、うまってるんだぁ 

     わすれないでねぇ ロデオ 
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遺書だった。何てことだ・・・・・・。かつて、あれほど僕に恐怖を感じさた 
ロデオまでが、「尾」も「胃」もバラされて埋められてしまったのか。 
しかも僕が立つ場所など、特定しようがないであろうに、下に埋まって 
いるということは、・・・・・・村中に散らされて埋められてしまったのか!! 
その無念は、想像を超えて余りあるとしか言えず、この村で起きた猟奇殺人に 
対する恐怖よりも、怒りがこみ上げてきた。 

このような猟奇的な犯行に及ぶ者の精神構造は、一体どうなっているのだろう。 
ロデオが、こうして僕に手紙に記しているということは、つまり犯人は、 
殺戮劇を繰り広げる前に、事前説明しているということじゃないか。 
そしてその状況を楽しむかのごとく、遺書を書くように仕向けているのだから。 
本当に怖かっただろうね。さぞ悔しかっただろうね。怒りつつも、僕にできる 
ことと言えば、ロデオのために手を合わせることだけだった。 

しかし誰なんだ?少なくともこの僕も、ロデオに斧を振り上げ殺そうと 
試みた事があるけれど、彼の体はものともせずに弾き返してしまったのだ。 
そのときの恐怖は、今でも忘れる事などできない。そして僕は、この村に 
いる限り、どのような相手でも殺す事ができない事を悟ったのだ。 
そのロデオに遺書を書かせるという余裕まで見せながら殺し、 
しかも体だけでなく、五臓六腑をもバラして村中の土中に埋め回るほどの 
念の入れようだ。それほどの作業をしながら、僕はその姿を目撃していないし、 
誰も怪しい姿を見ていないようだ。 
門番に聞いても、特に誰かが通ったと言う話もない。 

待てよ・・・・、門番?彼らが嘘をついていない保障など、どこにもないでは 
ないか。しかも彼らも兵士の端くれである以上は、殺戮の訓練を受けて 
いるはずだ。しかしそうだとしたら、どっちがやったのだろう? 
もし自分の相棒が勝手に持ち場を離れれば、普通ならば気付くし、また 
咎めたりもするのではないか。もちろん、最悪の場合は共犯であるとも 
考えられる。しかし、彼らのいずれか、もしくは両方がロデオを殺すとなれば、 
その動機があるはずだ。私怨はないだろう。ロデオには、他人の悪口を吹聴する 
悪癖があったけれど、門番への悪態を口にしたのを聞いたことがない。 
「もしかして、仕事・・・・?」最悪の仮説が思い浮かんだと同時に、 
怒りに吹き飛ばされていた恐怖心が首をもたげ、僕はその場にへたり込んでしまった。







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