この村には娯楽が少ない。 
しかし、今日はとたけけが来る。この村の数少ない娯楽だ。 
何を言っているのか分からない歌だが不思議と安らぐ。 
本当ならそんな暇はないはずなのだが、毎日同じことの繰り返しでは陰鬱になってくる。 
気分転換も必要だろう。 

僕は村から脱出する方法を来る日も来る日も捜し求めている。 
週に一日ぐらい休んでもいいだろう。休息を取らねばこの村では命取りだ。 
それぐらいこの村には危険が満ち溢れている。 

そんな風に考えながら散策していると、気がつけば喫茶店の近くにいた。 
なんてことだ。こんなにもとたけけの来訪を待ち望んでしまっているのか。 
この村に馴染んできてしまっているようだ。こんな事じゃいけない。逃げなければ。 

気を取り直して、少し早いがコーヒーでも飲んで待っていよう。 
この店は落ち着いた音楽が流れ、雰囲気だけはいい。 
「コーヒー飲むでしょう?1杯200ベルですけど… 
どのようなブレンドで?」 
僕は「いつもの」とだけ答えた。いつもので通じる辺り入り浸りすぎている事の証か。 

「そうそう、ピジョンミルク入れます?」 
不意にマスターが声をかけたので、僕は思わず「お願いします」と言ってしまった。 
…ちょっと待て。今何と言った?ピジョンミルクだと? 
ピジョンミルクってあれか。鳩が餌が取れなかった時に雛に与える、胃壁を剥がしたあれか。 

……待ってぇぇぇ。そんな物入れないでぇぇぇぇ。 

「冷めないうちにどうぞ。」 
…遅かった。僕の前にコーヒーカップが置かれた。 
早く飲めとマスターがこちらを見ている。鳩は意外と獰猛だ。飲まねば何をされるかわからない。 
僕は目を瞑って一息に飲み干した。 

帰宅して僕は寝床に潜り込んだ。 
この村から逃れられないだけでも十分な仕打ちだというのに、 
なんでこんなセコイ嫌がらせまでされなければならないのだ? 
もう嫌だ。帰りたい。助けて。 
僕は朝まで泣いた。







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