風水のことを最初に教えてくれたのは、誰だったろうか。 
どこの誰から情報を仕入れたかはすでに思い出せなかくなっていたが、ともかく僕は『風水』というものを知るに至ったのである。 

聞いた話によると、それには部屋に置いてある家具の位置と色とが関わっているらしい。
特定の方角に特定の家具を置くことで、『風水』とやらの効果が現れるということだ。 
うまい具合にやれば、この家を監視しているらしいハッピールーム・アカデミーとやらから高評価を得られる可能性もあるという。 
それがはたして得になるのかわからなかったが、とりあえず損にはなるまい。
そう思った僕は、脱出に悩む息抜きもかねて、玄関先の部屋の模様替えを始めた。 

僕は最初風水について半信半疑だった。しかし信じられないことに、効果はすぐに現れたのである。 
西側に黄色の家具を設置すると、金運が上がる。
そう聞いたような気がしたため、僕はとりあえずその通りにしてみた。部屋中の黄色の家具を部屋の西側に並べる。
あまり信じていなかったせいもあり、並べた数は適当にこんなもんかなと思う程度だった。 
しかし、それでも効果は現れたのだ。 
なんてことだ。使いを頼まれた時に住人達がくれる報酬の金額が、明らかに増えている。 
僕は家に戻って西側に置く黄色家具の数をさらに増やしてみた。
するとなんと、それに比例して動物からの報酬の額も上がっていくのである。 
ひょっとすると村の動物達は、ハッピールーム・アカデミーの連中とつるんで僕の部屋を監視していたのかもしれない。
…が、本当に風水の効果であるという可能性も完全には否めない。 
奇妙なことばかりの村なのだ。まやかしのように思える『風水』が本当に効果のあるものだったとしても不思議ではない。 
こんな村でも、懐が暖かくなるのは悪い気はしない。少なくともこのベルという通貨は、村の中ではしっかりと使えるのだ。 
僕は新しい発見と儲けた報酬についつい嬉しくなって、鼻歌混じりに家に戻った。 

家具をあれこれ動かしまくったので少々疲れてしまった。
日ももうすぐ落ちるし、今日はもう眠ろう。そう思い、ベッドのある屋根裏に直行する。 
ベッドにぼすんと横になって、僕はすぐに目を閉じたが、ふと胸の当たりに小さな不安を感じて再び起き上がった。
ベッドから立ち上がり、その場で狭い屋根裏の中を見回す。 
家の中で唯一、どうしても模様替えのできない区域がここだ。
何故かはわからないが、ここの壁紙と床板は変えようと思ってもなぜか張り替える気が起こらない。
唯一の家具のベッドは、ほかのベッドと入れ替えることはできても、ずっとこの位置でこの方向を向いているのだ。 
そこで僕は、思わずさっと青ざめた。 

……やっぱり風水なんて、まやかしだ。 
報酬が増えたのはたまたまだ。でなければやはり、動物達はハッピールーム・アカデミーとつるんでいるのだ。 
風水なんて迷信で、実際は存在などしないのだ。 
そうに決まっている。いや、そうでなければ困る。 


今日までもこれから先も、僕は北枕で眠るのだから。







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