その日、悲劇は起きた。 セルバンテスの家は跡形もなく消え失せていた。 外界から隔離された村の中にいる生き物は、僕と僕の自宅の謎の同居人以外は、皆動物の姿をしていた。 そしてセルバンテスは牛だった。 正直僕は、この村の住人達を信用してなどいなかった。 彼等も僕と同じ境遇の被害者であるとの考え方もできたが、住人含め村全体がグルという可能性もある。 何より彼等は、真面目に村のことを相談する手紙を書いても 「何が書いてあるのかわけがわからない」としか返してくれないのだ。 それはセルバンテスも同じだった。 …とはいえ、何日間も、何十日間も同じ村で生活し、 顔を合わせた結果……自然と、彼等の存在を受け入れてしまう自分がいた。 疲れがたまり、生きている何かと触れ合うことでの癒しが欲しかったのかもしれない。 セルバンテスはある時は渋い口癖を考えてくれと頼み、ある時はカルピからの手紙に爆笑する雄牛だった。 村をパトロールするぜと胸を張って言う彼の姿は、そのひょうきんな顔と合わせると、 こんな村でありながらも何だか微笑ましくなったものだった。 しかし、彼は消えてしまった。 彼の家のあったところには、看板が一つ、空しく突っ立っているのみだった。 哀しい虚無感が胸中に押し寄せる。また僕は村の友人が消えるのを食い止められなかったのだ。 数日後にはきっと、村の数合わせのために新たな動物が送られてくるのだろう。 そしていつか、ここにもまた全く別の住人の家が建つのだろう。 思わずふらりとよろけて、僕は近くの広葉樹にどんっと背中をぶつけた。 また一人消えてしまった。それを防げなかった。虚無感の次に押し寄せてきたのは、言い様のない怒りだった。 「畜生……ちくしょおおおお!!!」 怒りに身を任せ、思いきり広葉樹の幹を掴む。 爪が割れて血が滲むのにも構わず、僕はその木の幹を激しく揺さぶった。 他にぶつけようのない怒りをなんとかして静めるために。 木から何かが落ちてきたのはその時だった。 ふと、落ちてきた物体に目を向ける。それを拾い上げてみた時、僕は怒りで頭にのぼった血が一気に引いていくのを感じた。 僕が拾い上げたそれは。 牛の頭蓋骨。 嗚呼、 嗚呼。 神様。 ■TOP