ある奇妙で恐ろしい現象は、秋晴れのさわやかな日に起きた。 僕はいつものように目が覚め、いつものように手掛かりを求め、村をさまよった。 毎日どこを探しても何をしても手掛かりは無く、もはやただの習慣と化していた。 焦る気持ちと諦めの気持ちが入り交じり、僕は不快でたまらなくなった。 僕は気持ちを落ち着けるため、喫茶店に行くことにした。 この村で唯一外界と同じ時を過ごせる場所だ。マスターが鳩である以外は。 僕はいつものように博物館に入った。 いつものようにフータの人様を舐め腐るような視線を浴びる・・・はずだった。 中に入った途端、館内に非常に不快な臭気がたちこめていた。 僕はその臭気にたまらず鼻を押さえ、床に目を移した。 ・・・・・驚愕した。そこにはフータの変わり果てた姿があった。 体は痩せ衰え、羽は無惨にも抜け落ち、剥き出しの皮膚は黒く変色していた。 まさかと思い、二階に上がると、小さな同様の変死体が転がっていた。 「うええええええ!」 僕は臭気とその惨状に、たまらず嘔吐した。・・・なんなんだ、これは!? 喫茶店に行ってみたが、マスターのかつての姿はそこには無かった・・・ 僕は外に出て、他の動物達がどうなっているのか、見に行ってみた。 不思議なことに、村の住民にはなんら変化がない。 その場にいたビンタに血相を変えて僕は話しかけた。 「博物館の中が大変なことに!フータやマスターが死んでいるんだ!」 しかし、彼はその話には一切の感心を持たず、家の中に入ってしまった。 他の動物達の反応も同じだった。ただ1人、アンヌを除いては。 「・・・嘘だろ」 村の外れに、彼女の死体が転がっていた。同様の死に方だった。 僕は訳が分からなくなり、腰が抜け、その場に座り込んでしまった。 その時、後頭部に強い衝撃を受け、僕は気絶してしまった。 気づくと、僕は自宅にいた。 時計を見るともう夜だった。 僕は夜に目覚めた事を不思議に思い、何かを思い出そうとするが、 頭に白いもやがかかっているような感覚になり、思い出すことが出来ない。 僕は強い倦怠感を覚え、再び眠ってしまった。 翌日、珈琲を飲みに博物館へ向かって歩いて行くと、看板が立っていた。 「博物館は閉館しました」 建物の入り口には立入禁止の立て札があり、電気はついていなかった。 そして村からアンヌの姿と家が消えていた。 僕は違和感を感じながらも、いつもの村の怪現象だろうと、大して気に留めなかった。 役場の方から村長の声が聞こえた。 「生物兵器実験は失敗じゃ。鳥どもが全滅した。」 しかし僕は、その言葉を聞いても何も感じることは無かった。
僕は改めてこの村の異常さを思い知らされた・・・ きっかけはメイプルだった。 村から鳥類が全て消え失せた日から数日後、一匹の新顔が来た。それがメイプルだった。 彼女は可愛らしい容姿をしており、仕草や言動も取って付けたような可愛らしさに溢れていた。 初めは皆からちやほやされていたが、徐々に他の住民達は彼女と疎遠になっていった。 やがて住民達は、メイプルの悪口をささやき合うようになり、僕にも彼女の悪口を言い始めた。 僕は特に彼女を嫌う理由は無いので、なるべく彼女の悪口の話題は避けるようにした。 すると次第に、彼女を庇っていると言われるようになり、僕も疎外され始めた。 もともと僕は住民達のことを警戒していたのでどうでもよかったが、 メイプルは明らかに心に傷を負っているようだった。 そんなある日、メイプルが僕に泣きながら話しかけてきた。 「どうしてみんなから嫌われちゃうんですぅ?哀しいですぅぅ!」 やや癇に障る声で泣きながらもせいいっぱいかわいそぶる彼女を見て、 僕はなんとなく嫌われている理由が判った気がした。 とはいっても深く関わるのはごめんなので、その場は適当にやり過ごした。 翌日、僕は目が覚めると外が騒がしいことに気がついた。 役場の前に人だかりができ、聞くに耐えない罵詈雑言が飛び交っている。 僕は人だかりに近づき、その中央に目を移した。 その瞬間、僕はあまりの光景に言葉を失った。 メイプルが、十字架に縛り付けられ、高い台の上で晒し者にされていた。 周りの住民達は正気を失っているかのような顔つきで、メイプルに罵声を浴びせる。 メイプルはあまりの恐怖に声も出ないようだ。 突然、十字架の下からキュリキュリと音がし、僕はそちらを向いた。 驚くべき事に、巨大な杭が下からせり出してきた。 そしてそれは、メイプルにゆっくりと下から近づいていく。 「く・・・串刺しにするつもりか!?馬鹿なまねはよせえ!」 僕はとっさに叫んだが、住民達には聞こえないらしい。 やがて血しぶきが辺りを真っ赤に染め上げ、声にならない叫びが村中に響いた。 「こ・・・こいつらは異常だ・・・狂ってる・・・」 そう経たないうちに、メイプルは静かになった。絶命したようだ。 「なんてことを・・・・」 彼等の狂乱の宴は、メイプルの死体を灰になるまで燃やし尽くすまで続いた。 翌日、村は何事も無かったかのように、日常の風景を取り戻していた。 村全体を覆ってた険悪な空気も消え、僕も疎外されなくなっていた。 ・・というより、住民たちはメイプルの存在自体を忘れているようだった。 僕は役場に行き、これまで村に住んでいた住民の一覧を見せて貰った。 だが、そこにはメイプルの名前は無かった。 「どうしたのかね?」 突然後ろから声がして、僕は驚いて振り向いた。 そこには村長がいた。 僕は村長にメイプルという住民が居なかったか聞いてみることにした。 「村長、メイ・・・」 その時、村長は僕の口を手で塞いだ。 「知らない方が良いこともある」 突然、目の前が暗くなった。 僕は自宅で目が覚めた。夜だった。 ぼくはデジャヴを感じつつも、思い出すことはできなかった。 ■TOP