僕は必死にどんぐりを集めた。ドンどんぐりの手前勝手な要求に堪えながら… 虫喰いどんぐりを丁寧に取り除きながら必死で集めたのだ。 だが、彼は230個を超えた時点で何もくれなくなった…脱出のヒントも教えてはくれない。 僕はあまりに腹が立ち、大量の虫喰いどんぐりを一度にくれてやった。 その時の奴の顔をみて、少しは気が晴れた気がした。 その夜、僕は家に戻り、ベッドに疲れた体を預けた。ヘトヘトだった。 直ぐに睡魔に襲われ、僕は深い眠りについた…はずだった。 真夜中に急に目が覚め、体を起こそうとするが、体が言うことを聞かない。 辺りを見回して、暗闇の中を目で確認し、何もいないと安心した…その時。 天井から変な音がし、僕は音のする方を見つめた。 暗闇に目が馴れてきて、次第に見えてきたそれに、僕は驚愕した。 虫喰いどんぐりが天井からぶら下がり、どんぐりから虫の足のような黒いものがわさわさと見えている。 ゆっくりとどんぐりが下りてきて、僕の顔の上で静止した。 僕は必死に逃れようとするが、体が全く動かない。 直後、中から小さな蜘蛛が無数に湧いて出て、僕の顔に落ちてきた。 たちまち蜘蛛どもが僕の鼻や口、目や耳に入って来て、激痛が走る。 「うわあああああああああああああああああ!」 …何故か目の前が明るい。外からは雀の鳴き声が聞こえる。 「…夢…?」 僕はふらつく体をなんとか起こし、外に出た。 家の前には村長の亀がいた。普段は役場の前に居るのに珍しいなと思った。 「おはようございます」 僕は一応挨拶をし、形だけでも礼をした。 村長は普段通りの張り付いたような笑顔を見せた。 「おはよう」 そう言うと彼は、僕に背を向けた。 僕は不思議に思いながらもその場から動こうとしたその時、村長は僕の方を向いて静かに言った。 「昨日はよく眠れたかい…?」
どんぐり祭とやらが終わった。まだ僕はこの村にいる。謎の同居人も一緒だ。 ドンどんぐりはどう見ても村長を名乗る亀だったが、それを追求してはいけない気がしていた。 だから僕は素直に彼の言う通りにし、どんぐりを集め続けた。 そうすることでこの村から逃げることができると思ったからだ。 だが、僕は今日もまだこの村にいる。 只一つ、彼の言う事を聞かなかったからだろうか。 「むしくいどんぐり」を好奇心から彼に手渡してしまったからだろうか。 今朝は目覚めが悪かった。何か悪い夢を見た気がする。 無数の虫達が僕の体内に潜り込んでくる夢だ。 まだその感触がこの身に残っている。あれは夢だと言うのに。 さあ、今日もこの村で生き延びるための、この村から逃げ出すための探索を続けよう。 ここに来てからずいぶん長い時間が過ぎた気がするが、 これから何が僕を待ち受けているのかまだ分からないから。 ■TOP